「~~~~~~~~っ! もうっ!」

 愛美はからかわれたと知って、あたふたした自分が恥ずかしくなった。この「もう!」は純也さんにではなく、自分自身に対してである。

「とにかく座りなよ。っていっても、ベッドしか座る場所ないけど」

「え…………」

 まだ警戒心が解けない愛美は、座るのをためらったけれど。

「大丈夫だって。僕は紳士だから。何もしないから安心して」

「……はい」

 愛美は「ホントかなぁ?」と(いぶか)りつつ、シンプルなベッドに腰を下ろした。実はけっこう根に持つタイプなのだ。

「――じゃあ、原稿読ませて」

「はい」

 純也さんが手の平を見せたので、愛美は原稿を全部彼に手渡した。

「ありがとう。どれどれ……」

 原稿に目を通し始めた彼を、愛美は固唾(かたず)をのんで見守る。
 もし全滅だったら……と思うと、何だかソワソワして落ち着かない。

「……あの。下のキッチンでカフェオレでも淹れてきましょうか?」

 読んでもらっている相手に気を利かせて、というよりは、この緊張感から少しの間でも離れていたくて、愛美は提案した。

「ありがとう。そうだな……、全部読み終わるまでには時間かかりそうだし。愛美ちゃんもここにいたって落ち着かないよね」

 そんな愛美の心境を察して、純也さんは「じゃあ頼むよ」とその提案に乗ってくれた。

 ――十分後。愛美は二人分のマグカップとクッキーのお皿が載ったお盆を手にして、純也さんの部屋に戻ってきた。

「カフェオレ淹れてきました。どうぞ」

 愛美の声に気づき、純也さんは原稿から顔を上げた。

「ありがとう、愛美ちゃん。ちょっと待って」

 彼はアウトドア用品の詰め込まれたスーツケースから、折り畳み式の小さなテーブルを出して室内に設置してくれた。

「お盆はここに置きなよ」

 愛美がそこにお盆を置くのを見ながら、彼は何やら考え込んでいる。

「うーん……、この部屋にはテーブルも必要だな」