――動き出したタクシーの窓から、だんだん小さくなっていく〈わかば園〉の外観を切なく眺めながら、愛美は心の中で呟いた。

(さよなら、わかば園。今までありがとう)

 駅に向かう道のりは長い。朝早く起きた愛美は(おそ)ってきた眠気に勝てず、いつの間にか眠っていた――。

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 JR(ジェイアール)甲府(こうふ)駅から特急で静岡(しずおか)県の新富士(ふじ)駅まで出て、そこから新横浜駅までは新幹線。
 そこまでの切符(きっぷ)は全て、〝田中太郎〟氏が買ってくれていた。

(田中さんって人、太っ腹だなあ。入試の時の往復の交通費も出して下さったし)

 新幹線の車窓(しゃそう)から富士山を眺めつつ、愛美は感心していた。
自分が指定した高校を受験するからといって、一人の女の子に対してそこまで気前よくするものだろうか? もし合格していなかったら、入試の日の交通費はドブに捨てるようなものなのに。

(ホントにその人、女の子苦手なのかな……?)

 園長先生がそんなことを言っていた気がするけれど。自分にここまでしてくれる人が、女の子が苦手だとはとても思えない。
 もしも本当にそうなのだとしたら、何か事情があるのかもしれない。