青薔薇の至愛





午前はみっちり働いていたせいで、朱ちゃんには聞こえない程度に鳴るお腹をさする。


「なあ、あのメイドさん超可愛くね?」


「ほんとだ、たまんねー。ああいうの見れるのが学生の文化祭のいいとこだよな」



外より中の方が人は少ないからと、建物内に引き返すと、チラチラと男の人の視線を感じる。


通りすぎる大学生らしきお兄さんに口笛を吹かれ、恥ずかしくて歩く速度が落ちてしまう。



「はー、煩わしいね」


「……朱ちゃん?」


「俺以外の奴がお前の事変な目で見てるのが落ち着かないんだけど。
 これでも着てろ」


「わっ……!」


黒色のスーツを私の頭に被せる朱ちゃん。


一瞬視界が見えなくなったけど、いい匂いのする上着に少しだけうっとりした後、ハッと我に返り、袖を通す。




身長差のせいで、ブカブカのスーツはメイド服を完全に隠してくれた。



「んー、一瞬で俺の"もん"感でんしゃん。
 メイド服姿今日一日堪能するつもりだったけど、やーめた。
 そっちの方が何倍もいいねー、彼シャツ文化祭バージョンってやつか?」



「こ、これはこれで少し恥ずかしいよ?男物だし」


「だからいいんじゃないの。分かってないね優乃は。」


「……そういうもの?」


「そういうもん」