エリート御曹司は淫らな執愛を容赦しない~初夜に繋がる結婚事情~

「ああ、そう。栗原さんは本社でしょう。小林くんの職場とは離れているし、プチ遠距離ね」

嫌味にならないように、ビールを飲みながら抑えた声で言う。

「俺は、退職して一緒についてきてもいいって言ったんですけど、りり……栗原さんは本社にいたいそうで」
「へえ」

頷きながら、あのちゃっかりした女子の顔が浮かぶ。小林くんの現在の職場は、グループ企業の広告代理店になる。都内以外の関東、北陸に顧客があり、埼玉のかなり北よりに本社がある。おそらく栗原りりかは東京から離れたくなかったのだ。曲りなりにも超有名企業の本社勤務。恋人のために退職して転勤に付き合いたくはなかったのだろう。もしかすると、本社勤務ではなくなった小林くんに、すでに見切りを付けている可能性もある。

「古道さん」

小林くんの口調が変わる。ビールジョッキを置き、あらためて正座する小林くん。それからがばっと頭を下げた。

「俺、ずっと謝りたいと思っていました」

きた!謝罪!
思わず、私はガッツポーズしそうになってしまった。さすがに実際はしなかったけれど。心の中の問題ね。

「あのとき、泣いてる後輩の栗原さんを放っておけなくて。みんな見ていましたし、俺が場を収めなきゃって思って、ああいう行動に出たんです。結果、古道さんをものすごく傷つけてしまったと感じています」

その言い方に引っかかるものを感じた。なんか、絶妙に自分の非を認めてなくない?
俺はこう思って行動したけど、こうなってしまって残念です。みたいな。

違うよね。きみ、栗原りりかにずっと好きだったって言ったよね。きみがつらいとわかっていながら……とか、遠回しに私のいじめを見ていた的なこと言ったよね。覚えてるぞ、私。