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その晩、待ち合わせの居酒屋に、仕事着のスーツのまま私は出向いた。
駅近くのビルに入っている居酒屋はチェーンではないし、このあたりでは人気だとグルメサイトでも紹介されているお店だ。しかし、こういったお店を選ぶあたりに若さと配慮の無さを感じた。それとも、気の置けない関係をアピールしているのだろうか。
「古道さん、今日はありがとうございます」
小林くんは先に個室の座敷に到着していた。私は向かいに座り、うっすら微笑み返す。
「お招きありがとう」
ビールやつまみ、刺身などを小林くんが注文する。私が主張をしなかったので、後輩らしく気を利かせたようだ。
「古道さんとこんな形で再会できるとは思いませんでした。ずっと、ゆっくりお話したいと思っていて」
小林くんは到着したビールを持ち上げて言う。乾杯する気分でもないけれど、私はお義理でジョッキをぶつけた。
「異動したのね」
「あ~、なんかこっちに人が足りないとかで。まあ、もしかするとなんですけど、栗原さんのこともあるかもしれないです」
小林くんの口から栗原りりかの名前が出て、一瞬どきりとする。
「彼女、俺が他の女子社員と喋るとすごくうるさくて。古道さんが退職されたあと、社内で泣きだしてしまうことが何度か。たぶん、それもあって、俺と職場を離そうってことに……」
なるほど、そんな理由が。どうやら、小林&栗原は社内でも痛いカップルになっているらしい。



