エリート御曹司は淫らな執愛を容赦しない~初夜に繋がる結婚事情~

“重たい好意”だなんて、本当は思っていない。
優雅は、私に一定の距離を取ってくれている。キスをされたこともあるし、軽口でのアプローチはしょっちゅう。だけど、私を追い詰めるような迫り方はしていない。この言葉は完全に自意識過剰で、小林くんの件を含め諸々の苛立ちに対する八つ当たりだ。

「出過ぎたことを言いました」

ややして、優雅が言った。口調も表情もいつもの穏やかな彼に戻っている。
私は今更、謝ることも発言を撤回することもできずに、視線をそらしている。

「愛菜さん」
「なんですか」
「抱き締めてもいいですか?」

驚いて優雅の方を見ると、存外寂しげな顔で優雅が微笑んでいた。私は途端に罪悪感でいっぱいになった。傷つけてしまっている。だけど、私は優雅にかけられる言葉を持っていない。

「どうぞ」

高慢な私は、偉そうな態度のまま、ハグを許してやることしかできない。
優雅が長い腕を伸ばし、やわらかく私を抱き寄せる。髪の毛にかかる吐息が温かく心地よいと感じた。
抱擁は一瞬。優雅はすぐに私から離れた。

「いってらっしゃいませ。愛菜さん」

私はどうしたらいいかわからない心地のまま、非常階段を後にした。優雅を残して。
スマホには、小林くんから今夜の待ち合わせについて連絡が入っていた。