トイレから廊下に出て、席に戻ろうか一瞬悩む。少し酔いを覚まそうか、でもそろそろお開きになるはずだ。座敷に居た方がいいだろう。そんなことを考えていると後ろから両肩をがしっと掴まれた。

「ほーら、捕まえた」

大きな声に私はぞわぞわと総毛だった。三田河だ。

「三田河社長、どうなさいました?」
「古道さんが帰ってこないなあと探しに来たんじゃないか」

手を少々乱暴に外し、ざざっと距離を取る。表情だけはにこやかにしておく。

「社長、会もそろそろ終わりです。お席に戻りましょう」
「そこでなあ、古道さん。ちょっとふたりで抜け出そう。すぐそこにいい店があるんだ」
「いえ、部下と一緒ですので」

さすがに私はずばっと断った。
いい加減にしなさいよ、たぬきオヤジ。本来は私たちが接待される立場なところを、少々持ち上げてやればいい気になって。そもそも、全部セクハラだからね。

「部下ぁ? あんたの連れてるハンサムなのに任せればいいじゃない。古道さんは俺と飲みにいくんだよ。ふたりっきりで、ゆっくり」

気色悪い。そういう立場にないってわからないのかしら。それとも、自分が男性的に魅力があると思ってるのかしら。悪いけど、男を誘うために小綺麗にしてるんじゃないわよ!

「あのあんたの男前な部下、古道社長のお気に入りだろ。前もみたことあるけど、女はよりどりみどりってくらいの顔だな。男だって落とせるぞ。そうとう遊んでるだろう」

どうやら優雅のことのようだ。
確かに男前ですが、関係ないでしょう。モテるでしょうし、遊んでいても不思議はないですし、私もそのへんわからないけど……実際どうなんだろう。
待った、待った。今は優雅のことを考えてるんじゃなくて……。