「才媛だとは噂に聞いていたけど、女優をやった方がいいでしょ。美人だねえ」

うん、これは若干馬鹿にしてる感があるぞ。でも、無神経な男性にはよくあること。本人は『褒めてる』つもりなのだ。

「あなたの顔とスタイルだけで、客は虜になっちゃうよ。ははは」

はい、これはもうアウト。セクハラど真ん中。
下品な男だ。周囲も誰も咎めないあたり、この会社も先が見えている。しかし、私の好悪で会社を切るわけにはいかない。今回の施工は三田河で始まっているのだから。

「三田河社長は、S市のお生まれでしたね。ぜひ今回の現地についてお教えください」
「ええ、仕事の話なんていいじゃない。もっと楽しい話をしよう」

私はクラブのお姉さんじゃありません。イラっとしながらも、笑顔で言う。

「社長はこの地方の名士でいらっしゃるとうかがいました。私のような若輩が言うのもなんですが、社長のご功績を伺い、参考にしたいと思っていまして」

猪口に日本酒をそそぎ、微笑む。三田河が杯を開け、気色悪く笑った。

「おお、それじゃあ語らせてもらおうかな。美人のお酌は進むしなあ」

どこまでもセクハラ気質だ。私はにこにこしながら、次回はキシダ建設に言ってこの会社を下請けから外させようと決めた。ふざっけんじゃないわよ。

二時間ほど経ったところで、さすがに酔いが回ってきたのを感じた。三田河に付き合って日本酒を結構飲んだ。お酒が好きなわけじゃないけれど、飲める方だ。酒量で負けるはずがないと高を括りすぎたのかも。