ホテルの建設現地は隣県S市にある。
以前は温泉と海水浴場でにぎわったこの土地も、近年は観光客の減少に悩んでいる。同時期に立った古い旅館が多く、どうしても古くさい温泉地といったイメージなのだ。
そこで、KODOのリゾートホテルを建設し、市の観光課とも組んで数年計画で活性化を図ろうというのが今回の案件。私はひとまず、ホテル開業までを担当。その後は、新ホテルの支配人やKODO開発のイベント計画を中心にする部署が担当するだろう。

現地は基礎工事の最中だ。現場入りしている社員たちに案内されながら、詳細を聞く。
勉強はしているけれど、やはりまだ経験不足。聞いている内容が順調なのか判然としない。
優雅をそっと見上げると、目で合図された。あとで説明します、というような落ち着いた視線に安堵する。本当に部下、相棒としては満点だ。

現地から駅前に移動し、一度荷物を宿泊する自社ホテルに預けてから、施工を担当する三田河建築工房の担当者と打ち合わせをした。
夜は、三田河の担当者たちと社長、こちらも私と社員たちで懇親会と相成った。
これがなければ日帰りで帰れたのに、と思いつつ、私の挨拶も兼ねているので仕方ない。小料理屋の座敷で会食となった。

「いやあ、古道社長の娘さんがこんな別嬪さんだったとはねえ」

三田河社長はでっぷりと太った六十代の男性で、声が大きい。なお、私はこの程度でセクハラなどとは言わない。容姿を磨いているのは相手に好印象を持ってもらうために当然のこと。