「せめて、後継者指名は考えてはくれないか?」

父が言い募る。

「いえ、社長は愛菜さんです。僕が社長就任を受ければ、愛菜さんは結婚を拒否し、また職を求めて上京してしまうかもしれません。あれだけバイタリティのある方です。彼女はどこに行っても活躍するでしょうし、彼女を欲しがる企業は多くあるでしょう。そうなれば、愛菜さんがKODOやこの土地に戻ってくることはなくなります」

優雅がもっともらしく言う。この男、遠回しに父を脅かしてる。私を社長にしないと、また東京に逃げられるぞって。

「愛菜さんは聡明な女性です。未来の社長であると明言されれば、持てる力のすべてを注ぎ込むでしょう。そして、伴侶には必ず僕を選ぶでしょう。好悪ではなく、KODOをともに大きくしていける相手として」
「なるほど……確かに愛菜は気性が強すぎるところがあるが、それもトップに立つ者としては向いているのかもしれないな。優雅くんを選ぶというのも、打算的ではあるが、あの愛菜なら頷けるよ」

父が困惑げに応える。優雅の発言は誘導的だ。私との結婚は必須だと言わんばかりに聞こえる。

「社長の遺伝子を継いだ女性です。どうか、愛菜さんを信じて差し上げてください」

私はそろりとドアから離れた。書類を抱え直し、音もなく廊下を戻る。

頭は依然混乱中だった。
優雅は、東京のとんでもない大企業の御曹司。うちの父への恩返しでここにいる。
そしてなぜか、私と結婚することに執着している……。

わけがわからない……。私、これからあの男とどう接していけばいいの?