真由乃と別れ、昼休みを終えると、私は社長室に向かった。社長決裁のいる急ぎの書類だ。午前は出かけていた父が午後また外出する前に捕まえたい。ついでに今夜も残業になるから心配するなと言っておこう。
優雅を養子にしては……という素晴らしいアイディアは、時期を見て告げよう。父は、あくまで私も経営者のひとりにしたいみたいだし、考えるゆとりのある時に、穏やかに話し合いたい。

社長室前でノックしようとして足を止めた。中で話し声がすることに気づく。来客だろうか。いや、それなら応接を使うはず。つまり中にいるのは社員だ。社員なら、書類だけ渡しに入室してもいいだろうか。
しかし私は持ち上げた拳をノックせずに止めた。中から聞こえる声が優雅のものだと気づいたのだ。

「……愛菜さんはよくやってくださっています」

しかも、ちょうど私のこと話してる?
私は周囲をきょろきょろと見回し、誰も廊下を通りかからないことを確認してからドアに耳をくっつけた。
だって、聞いておきたいじゃない。
謎の男・左門優雅がどんな気持ちで私の下についているかわかるかもしれないもの。