私の静かな怒りに父が言葉を選んで黙ってしまう。フォローなのか、母が横から口を挟んだ。

「いずれは優雅さんと、というのは昔から考えていたことなのよ。ほら、愛菜、彼氏もずっといないようだったし」
「そんなのお父さんとお母さんに言わないだけです」

両親が気まずく沈黙する。私はさっと青ざめた。

「もしかして、調べたの? 私の身辺。興信所とか使って」
「……愛菜はひとり娘だからな」
「悪気があったわけじゃないのよ。でも、あなたを想って」

見栄を張ることもできない。ここ数年の私のノー恋愛デイズは白日の下にさらされているらしい。恥ずかしいやら、悔しいやらで私は変な顔のまま固まっていた。

「知っての通り、優雅くんは非常に優秀な男だ。優雅くんのお父さんと私が親しくて、大学卒業からお預かりしているが、うちの後継者に一番ふさわしい男だと思っている」
「じゃあ、この人に会社をお譲りして終わりでいいじゃない。お父さんひとりで成り上がった会社なんだから、一族経営にこだわることないでしょう?」

私は苛立たしく続ける。

「私はこの家と資産を受け継ぐだけで、充分生きていけます。いきなり婚約とか、どうかしてるわ」
「……確かに」

不意に、それまで黙っていた優雅が横で低い声を発した。

「僕は、愛菜さんに相応しい男とは言えないかもしれません」

私はそろりと隣を見やる。優雅は透き通るような美貌をこちらに向け、私を見つめている。

「美しく聡明なあなたには退屈な男でしょう。お会いして十年になりますが、お互いをよく知り合う時間も、さほどありませんでした。僕を不満にお思いでも仕方のないことです。……ですが、努力する機会はいただけませんか?」