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優雅の運転する車で、帰りついた実家は、広い敷地に佇む日本家屋だ。
冬場は多少雪の積もる街だが、豪雪というほどでもないので、庭に雪はほとんどない。片隅に雪をまとめた小山がふたつある程度だった。

「ただいま」

玄関を開けると、両親がそろって顔を出した。父はどうやら仕事を休んで待ち構えていたらしい。

「おかえりなさい、愛菜」
「疲れただろう。ほら、こっちでお茶でも。優雅くんも来なさい」
「優雅さん、愛菜のお迎え、助かったわ。ありがとう」

今までは左門と呼んでいたのに、娘婿になると決まったら親しげなこの態度。私はうんざりした気分で靴を脱ぎ、久しぶりの実家に足を踏み入れた。
居間に入り、優雅と並んでソファに腰かけさせられる。向かいに両親。若夫婦とその親ポジションだわ。

「愛菜、あらためてお帰り。これからはうちの会社で頑張ってもらうわけだが、ひとまず営業部に入って、新規事業チームに配属ということに……」
「お父さん、それはもう知ってる」

私は冷たい口調で言う。

「婚約について、まるで知らなかった方が問題だと思うけど」