エリート御曹司は淫らな執愛を容赦しない~初夜に繋がる結婚事情~

電話を切って、脱力感から明らかにペースダウンした荷造りを勧めつつ、左門優雅のことを考えた。

左門優雅。私が大学生のときに、父の会社に入社している。三つ年上の三十三歳。
入社当時から恐ろしく仕事ができ、あっという間に父のお気に入りになり上がった男だ。部下であり、秘書のいない父の秘書役もこなしている。年嵩の重役たちも彼の働きぶりには一目を置いていて、頼りにしている模様。
おそらく私と結婚するのに、一番ふさわしい男だと、社内の多くの人間が思っているだろう。だから、噂の段階でもリアリティがありすぎて、まことしやか広まったのだろう。真由乃なんかは真実だと思って連絡してきたのだ。

しかし、私は左門優雅が苦手だ。
まず、顔立ちが良すぎる。男性に形容するには微妙かもしれないが、とにかく冴え冴えとした中性的な美貌が際立つ男だ。鼻筋が通り、奥二重の目は切れ長で少々つり上がっている。薄い唇はいつも笑みの形だが、どんなに微笑んでいても冷たい印象を拭い去れない。

私に会えば、『愛菜お嬢様』と近づいてきて、慇懃に気遣ってくれる。それは中世の騎士が、仕える姫に対するような、礼節と敬慕のある態度だ。
だけど、全然キュンとしない。いっそ、うさんくさくも見える。おそらく、この男の真意が欠片も見えないからだ。私には左門優雅が何を考えているのか全然わからない。

ゆえに、私は数少ない帰省でも、極力父の会社方面には顔を出さないようにしていた。父の秘書役もするので、たまに実家にやってきたりしていたけれど、彼に会う機会があれば一定の距離以上に近づかなかった。

……そんな男と結婚?
まったく考えられないまま、私は故郷に帰ることとなったのだった。