エリート御曹司は淫らな執愛を容赦しない~初夜に繋がる結婚事情~

そこからはとんとん拍子だった。退職を上司に伝えたのが二月。実際に退職したのが二月末。長く済んだマンションを引き払うまでの一週間で、こちらに住んでいるわずかな友人と連絡を取り合ったり、不用品を始末しまくったり……。
引越しの荷造りに追われる私の元へ、真由乃から電話があったのはその頃だった。

『愛菜、戻ってくるんでしょう? 嬉しい!』
『真由乃、うちの母に言ったわね』

恨みというより、仕方ないなあという口調で尋ねると、真由乃は悪びれずに笑っている。

『へへ、愛菜のことが心配で。社長も奥様もすごく心配してたし』

まあ、結果として新しい道に繋がっているのだからよしとしよう。戻ったら、実家から父の会社に通い、新規事業に取り組むのだ。
そんなふうに想像する私に、真由乃が言った。

『そうそう、婚約もおめでとう』
『は?』

私は変な声をあげた。
初耳だった。……私は戻ったら婚約するらしい。どこの? 誰と? いつ?

『本社の左門さんとでしょう? すごいイケメンじゃない。社長の一番の部下だもんね。義理の息子にしてゆくゆくは会社を任せたいって思ってたんだねえ』
『聞いてない』
『え?』

今度は真由乃が驚いた声をあげる。私は怒鳴り気味に言う。

『そんなの聞いてないってば』