「おばあちゃんのこと、聞いた」
そう続けられたのとほぼ同時に、私の手はガチャリと扉の鍵を解く。
しまった。つい反射的に開けてしまった。そう思ったところで、時既に遅し。カラカラカラとゆっくり開かれた扉からは月明かりが差し込んで、その人の影が私に被さる。
「……久しぶり」
「……うん、久しぶり」
逆行で相手の顔はよく見えない。でも、声は嫌というほどよく聞こえた。
「…………え、と、あが……る……?」
「うん、少しだけ、上がらせて」
祖母のことを聞いたと言っていた。ということは、最後に一目、祖母の顔を見に来てくれたのだろう。来客用のスリッパを出して、祖母のねむる仏間へと彼を案内する。
「…………死因、聞いていい?」
「……心臓発作だって、お医者様が、言ってた」
「……そう、」
祖母の顔を見ながら、ぽつりと呟いた彼の表情は見えない。
母が死んだあの日から、ずっとそばに居てくれた彼のことを祖母はとても可愛がっていた。彼も、祖母に懐いていたと思う。付き合うことになったと報告した時はとても喜んでくれて、そして、別れることになったと報告した時は少しだけ哀しそうにしていた祖母のことを、彼は今でも大切に思ってくれていたのだろう。
「……お茶、いれてくるね。居間にいるから、あとで、来て」
「……分かった。ありがとう」
立ち上がり、仏間を出る。襖を閉じ、ひたひたと廊下を歩いて、台所へと向かった。