三年前のあの日までは、君も、生きる理由だったよ。なんて言えるわけもなく、だからといって、咄嗟に上手い誤魔化しが出来るほど私の脳は優秀ではない。
 何て、言おう。どう言えば、彼は納得してくれるだろうか。考えて、しかし思い浮かばず、黙り込んでしまった私に何を思ったのか、彼は、「ごめん」と唐突に謝罪を口にした。

「こんなの、困らせるだけだよね……君が、僕のこと何とも思ってないのなんて、そんなの、当たり前のことなのに」

 ほんの少しだけ身体を押されて、密着していたところに僅かな隙間が生まれる。伏せられていた彼の視線があがり、自分のものと重なった。その先にあるのは、変わらず、泣きそうな表情(かお)。けれどそれよりも気になったのは、気になってしまったのは、彼が吐き出した言葉だった。

「……だめ、だね。ちゃんと、君のこと諦めるつもりだったし、諦められてるつもりだったんだけど、」
「……」
「全然だ」

 諦める。その言葉を使うのは、それを行使しなければいけないのは、私の方だ。彼ではない。彼は、被害者だ。私という異常に囚われていた、被害者なのだから。

「僕ね、」
「……」
「ずっと、後悔してたんだ」
「……」
「あの日、君の幸せを願うふりをして、物分かりの良い男を、演じたことを」

 なのに何故、彼は、そんな、哀しそうな、けれど愛おしい者を見るような()で私を見るのだろう。