王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。

 五十嵐はちらっとキツイ目でおれを見たけど唇を引き結んで。
「こらこら、とんちゃん。女の子は泣かない!」
 コットンで虎の涙をぬぐってくれた。
 死にたいほどの絶望を宿したことのある魂は言葉もなく共振するんだろうか。
 町田がうなづく。
 そうだな。あとはおれだ。

 五十嵐の用意してくれたジーンズに眉をひそめたおれに、五十嵐のきびしいお言葉。
「加藤さんばかなの? 女の子は女装なんてしないんだよ」
 絶句したおれに町田もくすくす笑ったけど、安心したのか虎も笑って。
 ユニセックスなシャツとジーンズでも髪を半かつらでセミロングにし、五十嵐ご自慢の花飾りのついたミュールとかいう靴を履くと虎はもう驚くほど女子だった。
「お…まえ、すごいな、五十嵐」
「すごいのは、とんちゃんでしょうよぉ」
 五十嵐が大はしゃぎで虎の腕を取って、弾む足取りで先を行く。
「す…ごい、です。加藤さん」
 町田がまぶしそうにおれを見上げてくるのは王女さんを見ているんだろうが。
 おれもあらぬところに視線を投げて。

 ありがとな、王女さん。

 礼を言ってみる。
 都合のいいときだけ信じるのね。
 …とか、言われてそうだけど。