「危ないっ!菜那!大丈夫か?!」
朝、ホームで電車を待って並んでいる時、サラリーマンの鞄が私の足にぶつかった。
膝裏にちょうど当たったのと、驚きとでその場にしゃがみ込んでしまう。
それを昴が心配してくれて声を掛けてくれた。
「大丈夫」
と言うのと同時に昴は怒鳴り声をあげた。
「おいっ!こら、待てっ!謝れっ!」
ぶつかってきたサラリーマンに向けた声だ。
「昴。ほんと、大丈夫だから。ぼんやりしていた私も悪いんだし」
昴に手を貸してもらいながら立ち上がり、周囲にいる人たちに会釈するように頭を下げてその場を収める。
でも昴の怒りは収まらない。
「菜那のせいじゃねーよ。こんな人混みで走っている方が悪い。絶対に謝らせてやるっ!待ってろ」
「いや、待って!ボーッとしていた私がいけないんだし、それに注目集めちゃってるから。ね?ちょっと落ち着こう。こっち来て」
昴の手を引き、いつもの車両からふたつ分後ろに移動した。
「ここまで来ればいいかな」
手を離し、昴を見上げる。
昴の眉間には濃い皺が寄っていて明らかに不機嫌かつ不満げでとても怖い。
でも私は昴のその顔を見て笑顔になる。
「ありがとう。昴」
「礼を言われることじゃねーから」
分かっている。
昴は真面目で優しい性格だから許せないんだ。
「菜那にぶつかって謝らないのも問題だし、反省せずに次に小さな子供にでも当たったらどうする?顔面にあの硬い鞄が当たったら相当痛ぇぞ」
私のことだけじゃなくてその後の心配までしている昴を見て、やっぱり口元が緩む。
「おい、なに笑ってんだよ?」
到着した電車に乗り込んで、混雑する車内でメンチ切られても全然怖くない。
「昴って優しいな、と思っただけだよ」
思ったことを素直に口にすると昴は一瞬固まり、それから顔を逸らして呟いた。
「俺は優しくなんかねーよ」
「そんなことないって」
昴は優しさで満ち溢れている。
車内でも私が人にもみくちゃにされないように守ってくれるし、お年寄りに席を譲るのも、困っている人に手を貸すのも何度となく目にして来た。
今まであまりそういう目で昴を見てはこなかったけれど、昴はきっと女性にモテる。


