アンブレラ

傘の下で、菜穂も俺も黙っていた。
駅に向かって歩いていた。

どうしてなのかわからないけれど、俺は、亜梨紗の傘を思い出していた。

深い赤の傘。
初めて見た。

俺と付き合っていた時は、青い傘を差していた。
青は亜梨紗の好きな色だ。
凛とした雰囲気の亜梨紗に、落ち着いた青はとても似合うと思っていた。

でも、好きな色ぐらい変わる。

亜梨紗には青より赤が似合っていた。

亜梨紗には俺より岩澤のほうがずっと似合っているように。