店のドアを開けると、店は大量の客で埋め尽くされていたが、母はすぐに私の存在に気が付いた。


「るる?どうしたの?」
「大切な話が有るので、少しだけ時間を下さい!」


母は一瞬だけ戸惑った瞳を見せたが、すぐにコクリと頷いてくれた。


「ちょっとだけ、時間を頂戴!!」


そう言うと、店の中に有る個室に入っていったので後を追う。


小さい時から、母と過ごした記憶なんてほとんど無いが、それを恨んだ事は無い。


それは、母親の苦労を知っているからだ。


俳優だった父は私が幼い時に亡くなった。


それ以来、母は涙すら見せずに働く事に夢中になっている。


個室に入ると新しい畳の匂いが、鼻腔をくすぐる。それは、幼い時に感じた匂いにそっくりだった。


「るる。貴方が突然訪ねて来るだなんて、何かあったの?」
「今日、モデルにスカウトされたの!最初は読者モデルだけど、やれる所までやってみたくて!!」
「で?」
「私は未成年だから親の許しが必要だから、許して下さい!!」


確かにこの人は私を産んだ人だ。


でも、滅多に会えないから他人行儀になってしまうんだ。


本当はこんなお願いをする事は辛い。