三人の姉たちの影響で、世間一般の女の子ではどうも物足りなく、手応えが甘く、この歳まで結婚相手をみつけられずにいた。大学を五年かかって卒業し(母は、「私とおんなじね」と言って苦笑いをした)、卒業後十年勤めた会社をそろそろ辞めようかと思っていた頃、中途採用で入って来た子に何となく魅かれた。京都出身で、地元の大学を卒業後、アメリカへ留学し二年間勉強して帰国した。英語がペラペラだというのでまず興味が湧いた。何故だか母に会わせてもこの子なら・・・と思ってしまった。別に手練手管で口説いたわけではないが、いつの間にか付き合うことになった。彼女も僕も奥手な方ではなかったので、今時の軽い恋愛を楽しんでいた。
 半年程して何気なく彼女のことを母に話した。京都出身と聞いて母はコーヒーを飲む手を止めた。
「名前は?」
「沢村さん」
 母は目を閉じた。
「お父さんの名前、聞いてる?」
「マサユキ」
 母は危うくコーヒーカップを落としそうになった。僕は母を見ていたが、母は一度も僕を見なかった。
「パパにはまだその女性のこと言わないでくれるかしら」
 とだけ言って母はゆらりと立ち上がって二階へ行ってしまった。

 こんな事ってあるんだろうか。彼女と僕が腹違いの兄妹だなんて。僕は母を恨んだ。彼女は彼女の父を恨んだ。僕たちを結ばれない運命に陥れた何かを憎んだ。