『桜の雨も降り止み、 葉桜が萌えいづる季節となって参りました。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。』


マイクに通して拡声された生徒会長こと大ちゃんの声。新入生全員が大ちゃんの言葉を耳にする。

感嘆することを押し殺して、私はブレザー姿の幼馴染をただただ惚(ほう)けた顔で見つめていた。


『在校生を代表して、歓迎の意を表したいと思います。』


何気ない顔で話しているけれど、原稿を何度も赤ペンで直していた事を知っている。


それが何だか優越感で。


幼馴染の特権。
隣の家に生まれてよかった!なんて心の中でガッツポーズをした。


『……と、まぁ、原稿のまま読むのも味気ないので、ここからは少しだけ自分の話にお付き合いください』


「えっ…」


それはチラッと覗き見えた原稿には無かった言葉だった。その言葉一つで会場中の人間誰もが大ちゃんに視線を送る。

この空間全てが大ちゃん中心に回るような雰囲気に、『あぁ…生徒会長やってるんだなぁ』なんて印象を改めて受けた。


『2年間通っていて思ったこと、それはとてもありきたりなものです。遊びたい、バイトがしてみたい、部活に真剣に取り組みたい、友達とワイワイしたい。』


『高校生活をどのように彩るのか、それは自分で決めるものです。楽しい高校生活を送って欲しい。』


『5年後、10年後、さらにその先、自分自身が後悔しないような生き方を、進む道を、誰でもない自分自身が決めましょう。当たり前なことを言いますが、高校生活は今だけです。自分がどのように生きるのか、どのように過ごすのか、決められるのは今だけです。』


『オリジナリティーあふれる大きな活動に一つでもチャレンジしてみてください。皆さんのご活躍を期待しています。』


『最後に皆さんに質問です。』


息を呑む。
姿勢が伸びて、頭のてっぺんを糸で吊るされたような、そんな感覚。





『どのような高校生活を送りたいですか? どのような大人になりたいですか?』





『この高校を卒業する時、皆さんが笑顔で羽ばたけることを、心より願っております。………以上をもって歓迎の言葉といたします。』




一人一人に投げかけるような質問は、多くの人の脳内に残って深く焼けついた。みんなが憧れや尊敬の念を抱いて拍手の音を打ち鳴らす。


(うぅ…かっこいい…)


言わずもがな、私の幼馴染は格好いい。頼りがいがあって、優しくて、温かいお日様みたいに光り輝く。


自慢の幼馴染。自慢の好きな人。