「雑誌のカフェ特集でこのお店載ってたよ!」

「ふっ…それ前も聞いたよ。行きたいって俺に言ってただろ?」

「あれ…そうだっけ?」


落ち着いた雰囲気のレストラン。紅茶の茶葉の種類が豊富で、店内はあたたかい色をした照明に照らされていた。

漂う甘い匂いに癒されながら、カフェご飯を満喫しようと私はメニューを眺める。


「……ボロネーゼ美味しそう…。でもサンドウィッチも捨てがたいなぁ…。あぁ…ケーキも美味しそう…」

「食べたいもの、キリがないな」


クスクスと笑う大ちゃん。目尻がクシャッとなって、年上の男の人なのに少し幼く見える表情。

その表情を前にすると、いつも喉の奥の方がキュンと締まる。


「大ちゃんは? どれにする?」

「んー。迷い中。美鈴が決めてから決めようかな」

「えっ…待って!2択までは絞れそう…。」

「急かしてないから。ゆっくり選んでいいよ。」


普段、大ちゃんはズバッと決断を下すタイプ。珍しくメニューに迷っている様子に、私は『可愛い』という感想を抱いた。

これだけメニューに迷うくらい一つ一つの料理が光り輝いて見えるから、デートの効果って恐ろしい。


「2択まで来た…。サンドウィッチとボロネーゼ。」

「ケーキは?」

「んー…美味しそうだけど大ちゃん頼むの?」

「俺のことは気にせず…。お、美鈴の好きなモンブランあるじゃん」

「モンブラン好きなのは大ちゃんでしょ?」

「……うん。俺も好き。」


グッと身体が固まる。『好き』という言葉にイチイチ反応してしまうから子供っぽいとか、妹みたいって思われちゃうんだ。


「……大ちゃんも食べる?」

「美鈴が頼むなら一緒にケーキセット頼もうと思ってる。」

「じゃっじゃあ…注文する。」


注文するものを選んでいる間も会話は途切れなくて、大ちゃんは私の表情を確認しながら訊いてくる。


「メインは? 俺もサンドウィッチとボロネーゼ食べたいんだよね。」

「っ………それじゃあ、半分こ…する?」

「いいの?」

「うん…」


わぁ…だめだ…。

顔が熱くて、身体が火照ってきた気がする。


「……半分こって…デートみたい…」


心臓がおかしいくらいに音を立てるから、私は無意識にポロッと思ったことが口を突いて出た。
そして数秒後、ハッとして顔を上げる。


「ごめんっ…。デートだと思ってるのは私だけで…その…」

「………俺も、デートだと思ってるよ。」


自惚れる。

目の前にいる大ちゃんは首に触れながら、顔を逸らす。その顔は赤くて、優しい眼差しをしていた。


「………………」


暫く続く沈黙に、恥ずかしくなった。


「っ…」

《ピーンポーン》


耐えきれなかった私は無言のまま呼び鈴で店員さんを呼んだ。