一人ドキドキしている私に、悠一さんは口を開いた。
「紗和ちゃん覚えてるかな? 8月のクソ暑い中満員電車の中で一回俺と会ってるんだよ」
「……………え」
「電車の端っこに紗和ちゃんいたんだけどね。スゴイ人が多かったから、痴漢されないように紗和ちゃんの前に立って守ってたんだよね」
「……………」
悠一さんが話してくれる会話の様子を思い出してみる。……満員電車なんて夏だけでもイヤほど乗ってきたからどれか分からない。
「………で、ガタンって大きく揺れてさ。よろけて紗和ちゃんに抱きついちゃったんだよね。守ってたはずなのに、痴漢って思われたみたいで、おもいっきり足踏まれて凄く睨まれた。覚えてるかな?」
「――あっ!」
やっと思い出せた。
1回だけそういう事があったのは覚えている。
あの時は本当に大きな揺れで、その後1時間くらい電車が動かなかった気がする。悠一さんの事も痴漢だと勘違いして友梨ちゃんに愚痴ってしまった気がする。
その日は学校に遅刻して何故か担任にこっぴどく怒られたから尚更覚えていた。



