姉のカレシの、闇に溺れて




 『スミマセン、何の事か覚えてなくて』と、悠一さんに笑ってみせる。


 私が悠一さんの立場なら、いっそのこと、昨日の事は忘れてくれた方が助かる。

 ……………きっと、悠一さんもそうだと思っていた。
 『覚えてないなら良いんだ』と、笑顔をくれるとばかりに思っていた。


 けれど、悠一さんはにこりとも笑わない。
 ……どうやらきちんと昨日の事を謝りたいらしい。


 私が話題を変えなきゃ。


 お弁当のお礼をまだ言っていなかったことを思い出し、

「お弁当ありがとうございました。助かりました」

 深くお辞儀をした。


「……………紗和ちゃん、覚えてないって本気で言ってんの??」



 ―――――え!?
 …………あっ。そうだ。
 昨日の事を謝りたくて、私が出てくるまで待っていてくれたんだ。


 無神経な事をした。


 ………………答え、間違えた。









「あんなに気持ちよかったのに。何も覚えてないの?」