姉のカレシの、闇に溺れて



 勢いで口走ってしまった。
 何と言えば誤魔化せるだろう。


 どうしよう。
 どうしよう、どうしよう……

 ダメ元で苦し紛れな嘘をついてみる。


「え、えっと………前、友達カップルとお泊り会をした時に……カップルの男が私と友達を間違えちゃって……」


 これで誤魔化せるんだろうか。
 でも、悠一さんだって事は言えない……


 絶対に知られてはいけない。
 目が泳がないように南瀬くんへの視線を外せない。


「…………それで??」

 一瞬渋い顔をしたが、信じてくれているのだろうか。
 誤魔化せたと信じて話を進める。


「あ、うん。必死で抵抗したから大丈夫………」


 そう言うと南瀬くんはホッとした顔を見せた。


「…………月野は怖かったよな。変に安心しちゃってゴメン」

 嘘をついてしまった事に、酷く胸が痛む。


 南瀬くんは優しい。
 こんなに優しい人、やっぱり巻き込めない。


 ……それに。


 手まで握ってくれている南瀬くんに、変な勘違いはさせたくない。


 慌てて立ち上がり、お弁当の蓋を閉じる。