姉のカレシの、闇に溺れて




「…………ちょっと喧嘩して………」


「そっか……ちょい、まってな」


 放心状態の私に、南瀬くんは自分のダウンジャケットを掛けてくれた。

 ―――暖かい。

「あ、そうだ。俺、口つけちゃってるけど、柚子茶飲む?? まだ温かいし」

 ――と、リュックから柚子茶のペットボトルを取り出し、私に『ハイ』と、差し出してくれた。


 ゆっくり受け取り、一口頂く。
 冷え切った体がポカポカしてきた。


「全部飲んでイイよ。………つーか、喧嘩って、どうした?? 俺に話せる??」


 …………話せない。
 だって内容が内容だ。

 ――絶対に呆れられる。


「………無理」

「どうしても? 俺は月野の味方だよ。俺さ、小学生の頃友達と殴り合いの喧嘩したり、駄菓子屋で駄菓子パクッたことバレて親に怒られて駄菓子屋さんに謝りに行ったり、サッカーしてたら学校のガラス割っちゃったり……俺も、いっぱい悪事働いてるよ。だから、月野がもし、仮に何か仕出かしたとしても絶対に引かないから」