手を目の前にかざし、高い位置にある太陽を睨む。
 恨み言を言ったところで別にどうにかなるってわけじゃないけど、流石にこの気温では気が滅入ってしまう。
 なんてことを考えていると、あまり良くない色の雲が流れてきて日差しを遮った。


「ん……雨雲? すごい、雨の予報はやっぱり当たるんだ」


 左手に持っている赤い傘を確認する。
 今日の予報は晴れだったはずだけど、私が出かける前に彼女はこれを持たせてくれた。そしてそれは見事的中することになる。
 真っ黒な雲、これは絶対に降る雲だ。


「雨の方は大丈夫かな……商店街は駅より遠いのに」


 今日は雨と別行動をしている。コンビニ食だと栄養が偏るから、手料理を作りたいと私が言い出したからだ。
 でもそれは建前で、本当の理由は雨のためになにかできないかと思ってたから。一人で出かける予定だったけど、せっかくなら奏にも美味しいものを食べさせてあげたい、なんて言われてしまい雨は商店街へ向かってしまった。


 大層な料理を私なんかが作れるわけがないのに、もし高級なお肉なんて買ってきたらどうしよう……。


 ちょっとだけ不安に思う気持ちが膨らむにつれ、空模様もさらに悪くなってきた。どしゃ降りにならなければいいけど。
 右手に持ったビニール袋を肩にかける。


「んしょ……と。早く帰ろう、雨が帰ってきてなかったら迎えに行ってあげないと」


 ショーケースを後にして、一雨来る風の香りを感じる。独特な土埃の濡れたようなそんな匂い。両親と暮らしていた街では良く香っていたけど、このビルやマンションが立ち並ぶジャングルでも香ったりするんだ。
 もしかしたら近くに開拓されてない普通の……土の地面があるのかもしれない。インドア派だと、この辺りのことすらもわからないから何ともいえないけど。