最初に沙耶を見たときは、随分真っ直ぐな瞳の生徒だな、という印象だった。制服のブレザーの新品さも相まって、随分と彼女を幼い印象に仕立て上げていた。義務教育を終えて高校生活に入ると、生徒たちは随分自由な気風になる。その中で、中学生のような真っ直ぐさを持つ沙耶の瞳は、随分と印象的だった。

授業を始めると、彼女の、苦手ながらも熱心に授業を受けている様子に好感を持った。一年生のときの数学の成績も、決してよくはなかったが、それでも数学を諦めてしまう様子はなく、亨(とおる)の説明と板書、それから教科書を随分と見比べて聞いていたものだ。

一学期の間に小テストと、中間、期末のテストを終えて、沙耶の答案にケアレスミスが多いことに気が付いた。多分、問題の多さに頭がいっぱいになってしまって、焦ってしまうのだろう。きちんとゆっくり説明してやれば、その素直さと真面目さから、きちんと理解できるのではないかと思った。

そんな風に、沙耶のことを気にかけるのは、成績が振るわない生徒であることと、高校生にもなって幼馴染みの優斗と仲が良いこと、そして少し瞳の輝きが印象的であったからだと思っていた。





「沙耶!」

沙耶のクラスの授業が終わり、亨が教室を出ようとしたところで、沙耶を呼ぶ生徒の声が聞こえた。ちらと振り向くと、同じ教室の優斗が沙耶に話しかけていた。見た様子から、二人がとても仲が良いことが分かる。まるで子犬がじゃれあっているような感じだ。なにか、休みのことでも話しているのだろうか、二人で楽しげにしている。そのとき。

優斗の言葉に沙耶が破顔する。その、満面の笑みに、思わず亨は釘付けになった。

日向に咲く、ひまわりのように眩しい笑顔。亨がとうの昔に忘れていたものだった。懐かしい気持ちに胸の奥が疼くようで、亨は教室の扉のところで立ち止まってしまっていた。まるで、小さい頃の宝物を、今見つけたような、そんな気持ち。

笑顔の沙耶の隣に居る優斗のことを、羨ましく思ったのも、これが初めてだった。