机の上のものをきちんと鞄に仕舞って、沙耶も立ち上がった。開けていた窓をちゃんと施錠して、教室を出ようとしたときに、教卓の傍にシャープペンが落ちていることに気がついた。誰かの落し物だろうか。

(…っていうか、教卓のところなんだから、先生が落としていかれたのかな…)

多分、そうだろう。別に先生がシャープペン一本で困るとは思わなかったけど、落し物を見つけてしまったら、そのままには出来ない。沙耶はそれを拾って、教室を出た。

ブラスバンド部の練習が聞こえる校舎の中を、シャープペンと鞄を持って職員室へと歩く。廊下では誰とも擦れ違わないで職員室まで来てしまった。連休中なんだから、当たり前だけど。

「失礼します」

職員室の扉を開けると、意外にも先生方の姿があちらこちらに見られた。先生って、本当に生徒が休みでも仕事があるんだなあと思いながら視線を巡らせると、崎谷先生は職員室の真ん中の方の席に座っていた。先生は右手を目の辺りに添えていて、生徒が職員室に入ってきたことに気付いてない。擦れ違う他の先生方にも会釈をしながら、沙耶は職員室の真ん中まで入っていった。

「先生」

なにやら手で顔を覆っている先生からちょっと離れた所から呼んでみると、崎谷先生が呼びかけに気がついて、ふ、と顔を上げた。

「あれ」

思わず声を零してしまった。先生は、眼鏡を外していた。

いつもの眼鏡姿より更に若く、そして少し柔和な顔立ちに見える。レンズ越しでない瞳は、結構黒目がちで、そしてカーブがとても綺麗な瞳だった。

「ん? なんだ、岡本か。どうした?」

先生は沙耶の声に振り向いて、机の上においていたリムレスの眼鏡をかけた。あの、と沙耶は持っていたシャープペンを差し出した。

「これ、教卓のところに落ちてたんです。先生のじゃないですか?」

「ん? ああ、ホントだ。落としてたのか。気付かなかったな」

先生は微笑ってシャープペンを受け取った。今朝、頭の上に乗せられた手のひらが、細い棒を包む。

「わざわざ、ありがとな。もう帰るんだろ? 気ぃつけて帰れよ」

「ハイ。…あの」

「ん? どうした?」