「…いや……、なんか、こんなの、初めてだから……」

なんとか、言葉を誤魔化す。でも、本当にこんなこと初めてだから、戸惑っているというのも本当だ。優斗は、沙耶の応えに笑ってぽんと背中を叩いた。

「なんだ、そんなこと。会って、話してみたら、合う人か合わない人か分かるよ。話してみないと、その子がどんな人かも分からないじゃん? 会うだけ会ってみたら?」

もうすっかり封筒の中身が男の子からのものだと決めてしまっている。沙耶は、そんなんじゃないかもしれないよ、と優斗に言っておいて、封筒を鞄の中に仕舞った。そのまま靴を履き替えて、廊下を右に行く。北校舎へ行こうと思ったのだ。

「? 沙耶? 教室行かないの?」

「…だって、この封筒の中身が本当にそうなら、人の居るとこでなんか、読めないよ…」

沙耶が苦笑して応えると、優斗は、あ、そっか、と苦笑いした。どうやら出しゃばってしまったことを恥じているようだった。

「うん。じゃあ、後でな。上手くいったら、教えてよ」

「上手くいったらね」

優斗が南校舎に行ってしまうのを見届けずに、沙耶は北校舎の階段を登った。この前、芽衣に連れられた階段を上る。二階には特別教室がずらりと並んでいて、そのうちのひとつに、沙耶は入っていった。

椅子にも座らずに、鞄から取り出した封筒の封を切る。中には封筒と同じ色の便箋が一枚入っていた。

『今日の放課後、体育館の裏に来てもらえませんか』

書かれていたのは、それだけだった。文字は角ばった文字で、確かに差出人は男の子かもしれないとは思うけれど、これは、優斗が言うような手紙なのだろうか。それとも……。

(…崎谷先生も、人気あるし……)

もしかして、ばれたのかな、とちょっと背筋が冷える思いだ。これが女の子からだったら、崎谷先生を取らないで、という手紙にも見えるのだ。もしそうだったら、どうしよう…。

崎谷先生を、諦めることなんて出来るだろうか。もう知ってしまった、蜜の味。そう思うだけで、昨日先生が触れた鎖骨の下辺りが甘く疼く。

(どうしよう…)

どちらにせよ、そして全く違う話だったとしても、手紙を見てしまった以上は、やはり今日の放課後、体育館の裏に行かないといけないだろう。どうか、ばれてませんように、と祈るばかりだった。