「こら、永山。なんのつもりだ」

崎谷先生も顔をしかめると、芽衣は、いーじゃない、と笑った。

「別に、担任と生徒だし、補習の後にちょっと雑談くらいさー。先生、大人だから、限度はわきまえてるでしょ?」

「お前に言われるまでもないな。それにこの場合は節度の方が正しい」

じゃあ、大丈夫じゃない。そう言って芽衣は、また明日ねー、と沙耶に手を振って教室から出て行ってしまった。でも、残された沙耶は顔が真っ赤になるのを止められなかった。

「……ったく、あんにゃろ…」

崎谷先生が悪態をつく。こんな、ちょっと口の悪い先生なんて、教室で見たことなかったから、少しぽかんと見つめてしまった。

「…沙耶?」

「あ…っ、すみません。…あの」

どうした? と問われて、沙耶は恥ずかしくなってしまった。

「…先生も、そんな言葉遣い、されるんだなって…」

「あー…、ああ。永山と居ると、なんか素が出て駄目だな。一応学校では先生ぶっとこうと思ってるのにな」

…少し羨ましい気がする。教室では見せない崎谷先生の顔を、芽衣は知っているのだ。

「………」

「なんだ、どうした?」

気持ちが顔に出てしまったかもしれない。慌てて、なんでもないです、と言ったけど、先生は信用していないみたいだった。

「…沙耶?」

そんなやさしい声で呼ぶのなんて、反則だと思う。そんな風に呼ばれたら、なんでも心のうちを吐露してしまいたくなる。

どうした? ともう一度聞いてくれて、そして今度は頭を撫でてくれる。そのあたたかさに、どうしてもうっとりしてしまうのを止められない。

「…芽衣ちゃん、良いな、って……」

「永山が? なんで?」

声がまるであやすように聞こえて、こんなところでも大人と生徒なんだと思ってしまう。

「……そんな、悪い言葉話す先生のこと、私、知らなかったです……」

そして、こんなことを言ってしまうのも、また、子供のような気持ちになってしまった。これじゃ、ただの駄々っ子だ。

だから、先生の目を見てなんて言えなくて、ちょっと俯きがちにぽそぽそ言ってたら、不意に崎谷先生の手が、頬に触れた。