家族にも親友にも秘密の恋。それでも、先生の隣にいると、甘い水底へ堕ちていくのが分かる。

…大好き。

その言葉しか知らない。他の何もかも見えなくなってしまえばいいとさえ、思った。



「沙耶。最近図書室止めたの?」

終礼後、これから部活の優斗が、鞄を抱えて沙耶の席に寄って来た。沙耶もこれから帰るから、鞄に教科書などを詰め込んでいる。

「…うん」

「どうしたの? あんなに通ってたのに」

優斗の疑問も尤もだなあと思う。でも、図書室には…。

「色々、ね」

とても言えないから、曖昧に誤魔化そうとしたけど、どうやら優斗は心配してくれているらしく、その場を動こうとしない。

以前通っていた図書室の常連の中にいたと思しき男子生徒から、告白のようなことをされた。その後、崎谷先生からもそれらしきことをされて、沙耶の頭の中は一気に崎谷先生のことでいっぱいになってしまったわけだけど、思い返すと、やはり彼に顔を合わせられないという気持ちから、最近図書室から足が遠のいていた。

「…なんか、揉め事だったら、相談にのるよ?」

「ありがと、優斗。でも物騒なことじゃないし。ね?」

教室を出て廊下を一緒に歩く。丁度隣の教室でも終礼が終わったようで、前方からわいわいと生徒が出てくる中に、長身の友人の姿を見つけた。

「あ、芽衣ちゃん」

「あ、なに、沙耶に優斗くん。今帰り?」

「俺はこれから部活なの。沙耶は図書室寄らずに帰るんだって」

「へえ? 通ってたって言ってなかった?」

芽衣にまで不思議そうに聞かれてしまう。沙耶は苦笑で誤魔化した。三人で階段を下りながら話を続ける。

「じゃあさ、明日から私と一緒に勉強しようよ。今度の期末、流石にやばいって思ってて、どーにかしなきゃって考えてたとこなの」

聞くと、芽衣の中間の成績は赤点盛り沢山で、続けて期末に赤点だと、三年生の進路分けにも響いてくるようだ。別に有名大学を目指しているわけでもないけれど、でもどんなところでもいいから兎に角大学だけは出たい、と思っている芽衣は、なんとか就職コースではなく進学コースに引っ掛からないといけないと言う。そうすると、三年生のクラス編成の為の二年生の内申が重要になってくる。

「私、全体的にどの科目も悪いんだけどさー。中間の後に進路指導室に呼ばれて、兎に角少しずつ上げていかないとって言われて。夏休みは、予備校の夏期講習申し込んだわよ。もー、しょーがないわよね。大学に入っちゃうまでは」

厳しい現実だけど、沙耶も似たようなものなので、大いに頷く。

「じゃあ、これから少しずつ、一緒にやっていこうか」

「うん。一人だとさ、サボったりとかするかもしれないけど、二人だったらそれもないだろうし」

そんな訳で、沙耶と芽衣はともに協力をすることを約束した。昇降口まで行くと、優斗が、頑張れよー、と声をかけてグラウンドへと行ってしまった。芽衣が靴を履き替えないので、帰るんじゃないのかな? と思ったら、こっちこっち、と手を引かれた。

「? どこ行くの? 芽衣ちゃん」

「ん? 職員室よ」

…? 職員室? 何をしに行くんだろう?