芽衣の話はこうだった。沙耶は知らなかったけど、芽衣と崎谷先生は生徒と先生という間柄だったが、結構馬が合ったのだそうだ。元々崎谷先生は気取らない人だったけど、特に生徒の中では芽衣に対して砕けていたと言う。色々と難しい年頃の生徒にしては、芽衣は大雑把で色んなことを気にしないタイプだったので、崎谷先生も珍しい生徒だな、という風に思っていたらしい。芽衣も芽衣で、崎谷先生の見かけによらないさっぱりとした性格を好ましく思っていたのだと言う。煩わしく思ってしまう教師の中で、崎谷先生の言うことは結構真面目に聞けたというのだ。

そういう訳で、芽衣は、生徒と先生と言う間柄にしては、崎谷先生と仲良くなった。その先生が、時折ある生徒に視線を注いでいるのに気が付いたと言う。その先が沙耶だということはすぐに分かったのだそうだ。崎谷先生が沙耶の事を見る目は、他の生徒を見る目と全く違っていたし、結構面倒がりなのに、沙耶のことは色々気を配っていた。

「やー、正直どこまで本気なのかは分かんなかったんだけど、兎に角、そーなんだな、って思ってたから、だったら応援したあげたいなあって思ってたのよ」

「お…っ、おうえんって……」

また沙耶がぎょっとすることを言う。だって、崎谷先生は先生で、大人で、そして担任の先生なのに。でも芽衣はあっけらかんと笑うだけだ。

「だって、ちゃんと好きな人と結ばれた方が良いでしょ? 優斗くんには悪いんだけどさ」

優斗の名前が出て、さらにぎょっとした。芽衣は一体、どこまで知っているのだろうか。

「沙耶もさ、その、先生のこと、少しはいいなって思ってたじゃない? そうじゃなきゃ、私も応援する気にはならないし…。優斗くんが沙耶のこと大事にしてる気持ちも分かるけど、やっぱりこういうことは、本人たちの気持ちが一番大事なのよ」

だから、芽衣としては、沙耶がちゃんと崎谷先生と向き合ってくれるといいな、と思っているのだと言う。でも、向き合うとかそんなことの前に、やっぱりそれは、立場的にまずいんじゃないかと思うのだ。

「……でも、私…、……あの……」

それに、沙耶としても、学校の先生を好きになりました、っていうのは、…なんとなく後ろめたい気がしているのだ。そんな気持ち、誰も受け入れてくれない。

なんて、ごにょごにょと考えていたら、予鈴が鳴った。芽衣が、やっばいね、と言って、踊り場からまた連れ出してくれる。南校舎の階段を上るとき、引いた手をそのままにして、芽衣は言った。

「本当に好きだったら、ちゃんと先生のほう向いてあげてね。崎谷先生は、多分そういうところ、凄く真面目だと思うわ」

言われてまた顔に熱が集まった。昨日の感覚が、消えてなくならない……。