一階から二階へ上がる踊り場で、芽衣は沙耶をその角に立たせて、自分の背中で廊下から覆い隠すようにして立った。そして、両手を沙耶の頭の左右上あたりについて、まるで沙耶のことを囲うようにした。なんだか雰囲気がただ事じゃない。

「…め、芽衣ちゃん…?」

「あのさ、単刀直入に聞くけど」

声は潜められている。耳元とは言わないけれど、明らかに内緒の話の体勢だ。

「崎谷先生と、なんか、あった?」

ぎょっとする。何故、芽衣が、ここで崎谷先生の名前を出すのだろう? 一気に頭の中が昨日の事を思い出してパニックになる。口は動くが言葉にはならず、あわあわと息を継ぐだけだ。

「あ、当たり?」

芽衣は沙耶の様子を見て、軽くそんな風に言った。でも沙耶はそれどころではない。

「め…っ、……め…、めいちゃ……」

「あー、うん、ごめんね、驚かせて」

内緒話の体勢のまま、芽衣が沙耶を安心させるように微笑った。彼女は沙耶が落ち着くまでじっと待ってくれて、それで沙耶はなんとか走る心臓を抑えることができた。

「…な、……んで……」

でも、それしか言えない。だって、昨日、教室近くには誰も居なかったし、沙耶もあの時教室から逃げるように出ても校門を出るまで誰にも会わなかった。だから、言い当てられたことが、本当に驚きで。

だけど芽衣は、なんというか悪戯っ子が困ってしまったみたいな顔で笑ってウインクをしてきてこう言った。

「そういうのはね、第三者のほうが分かるもんなのよ。意外にね」