「連休が明けたら、俺も勉強見てやろうか。高校生くらいは、まだ出来ると思うぜ」

横尾先生の言葉に、沙耶は笑った。こうやって、時々笑わせてくれるところが、きっと生徒にとっても親しみやすい理由だろう。

「私、世界史はそこそこだから、横尾先生にご迷惑はかけないと思いますよ」
本当のことだ。実力テストのときも、世界史は平均点を取っていた。

「ちぇ。俺も数学専攻すれば良かったかなあ」

「補習したがる先生も、不思議ですよね」

「それもそうか」

沙耶と横尾が立ち話をして笑っていたら、スピーカーから予鈴が聞こえた。確か崎谷先生は、始業までに席に着いているよう言っていたはずだった。

「わ。私行きますね。失礼します」

「ああ、頑張れ」

ぺこりと会釈をすると、横尾先生は手を振って職員室へ入っていった。沙耶はそこから昇降口に駆け込んで、急いで教室へ向かう。連休中だったから、廊下も思い切りダッシュした。

ガラッと教室の扉を開けると、教卓の前にはもう崎谷先生が立っていた。丁度、始業のチャイムが鳴る。

「こら。始業までに席に着けって、言っただろ」

「すみません」

教科書の角で肩をとんとんと叩いている。それに急かされて慌てて席に着いた。教科書とノートを開く間に、先生が黒板に向かう。

「グラウンドにでも、寄ってきたのか」

チョークを握ったまま、先生が話しかけてきた。…一応、もう授業中だけど。

「あ、いえ。横尾先生に挨拶してました」

素直にそう言うと、小さな音がした。疑問に思って先生の方を見つめたけど、崎谷先生は板書の手を止めない。

「よし! 気合入れて行くぞ。しっかりついてこい」

「わ、はい!」

先生が喝を入れて、沙耶も背筋を伸ばした。先刻までののんびりした時間は終わり。折角先生が時間を割いて教えてくれるのだから、少しでも成績を上げなくては、と思った。