「優斗」

「なに?」

優斗がきょとんとして座ったまま上を見るから、ちょっと内緒話みたいにして優斗の耳に口を寄せる。

「彼女、帰り道大丈夫なの?」

沙耶が聞くと、優斗は、ああ、という顔をした。

「部活ない日は一緒に帰ってあげれるけど、部活ある日は早めに帰るよう、言っとくつもり」

「うん。それが良いよ。気をつけてあげて」

「沙耶もね」

そう言って、気にしてくれてありがと、と優斗が微笑ってお礼を言ってきた。でも、そんなの、親友の大事な人なんだから、少しくらい気にしたって普通だと思う。そこまで話したら、丁度英語の先生が教室に入ってきて、それで会話はおしまいになった。



痴漢の話は全クラスで行われたらしかった。特に女子が終礼後慌てて帰るようになり、クラスメイトとタイミングが合わなかった子は、他のクラスの子の終礼が終わるのを待ってから帰っているようだった。勿論、中には堂々とカップルで帰る者もいて、廊下のすれ違いざまに、他の生徒から羨ましげな視線を浴びていたりした。

他にも、女子から駅まで一緒に帰ってくれないか、なんてお願いされてみたら、実は好きでした、なんてパターンもあったらしく、なにやら校内が別の意味で騒がしくもなっていた。

優斗たちも、本人としては見せびらかすつもりなんて全くなかったのだろうけど、時々一緒に帰っている様子をクラスメイトなんかに見られていて、それでお付き合いがクラスにばれてしまったようだった。なんとなく隠しておきたかったらしい優斗としては心中複雑のようだったけど、それで危ない帰り道を堂々と送ってあげられるのだったら、まあいいか、ということに収まったらしい。特にクラスメイトからやっかみもなかったようで、そこは良かったと思う。