終礼の前になって、雨は一時止んだ。例え折り畳み傘を持っていたとしても、それをさして帰るのと、手を空けて帰るのでは気分が違う。帰宅部の人たちは、このタイミングに、とばかりに、終礼が終わると急いで教室から出て行った。

優斗も手際よく荷物を纏めて教室から出て行くようだったので、また明日ね、と声をかけた。沙耶も気をつけて帰れよ、と返されて、ちゃんと笑って返す。幼馴染が教室を出て行った後で、沙耶は鞄に教科書類を詰め込むと、図書室へと向かった。

図書室は空調が効いているから、肌に纏わり付く嫌な感覚に悩まされないで済む。快調に、とはいかないけれど、今日も数学の問題集とにらめっこをして過ごした。だって、また期末のテストの点数が悪かったら、優斗に要らぬ心配をさせてしまうかもしれないし、やっぱり崎谷先生を煩わせるのも良くないと思ったのだ。

今日も机の端っこに席を取っていたのに、いつの間にか随分集中していたのだろうか、気付くと窓の外には一旦止んでいた雨が、またさらさらと降っていた。

まあ、いいや。どうせ梅雨なんだし、雨に降られるのは仕方ない。今日は集中していたから、もしかしたら期末にこの成果が出るかもしれない。だとしたら、雨に降られるのなんて全然気にならない。むしろ有意義な時間だっただろう。

ほ…、と息をついて、目を窓から問題集に移しなおす。でも、一旦窓の外に気を取られて集中力が欠けてしまったらしく、その後はどうもはかどらなかった。先刻まで、自分にしては凄い勢いで頭の中に数式を並べていたのに、と思うと、今日はこれで終わりかな、と思う。

ちょっと早いけど、雨が酷くなる前に帰ろう。

そう決めて、机の上の問題集や筆記用具を鞄に仕舞う。まだ他の生徒が勉強しているから、煩くしないようにそっと椅子を引いて立ち上がると、丁度窓から学校の敷地をぐるりと囲っているフェンスの向こうに、あちこち余所見をしながら歩いている人影を見つけた。