校門を入ると、昇降口へ伸びる道と職員室の方へ行く道は別れる。先生は「始業のチャイムまでに席に着いているように」と言って、職員室の方へ行ってしまった。後ろから見るとやっぱり少し猫背気味に歩いている。運動部の朝練の女子生徒が先生に挨拶していくのが見えた。少し話も弾んでいるように見える。崎谷先生は若いし綺麗な顔をしているので、女子に人気があるのを沙耶は知っている。

ふうん、と思いながら沙耶は昇降口へと向かった。まだ始業のチャイムまでは十五分くらいあるから、ゆっくり歩いても全然平気だ。グラウンドの方へ出れば、優斗がラグビー部の練習で出てきているかもしれない。そう思って歩いていたら、校舎の方から声を掛けられた。

「沙耶かぁ。どうした、連休中に」

声は職員室に伸びる廊下から聞こえてきていた。沙耶の名前を呼んだのは、世界史の先生だった。

「横尾先生」

「どうしたどうした。部活でもないだろう、お前は」

横尾先生が手招きをするので、沙耶は校舎の方へと小走りで近寄った。先生が廊下の窓からこちらを見ている。

横尾先生は、生徒に評判の男前の先生だった。特に三年生の女の先輩から絶大な支持を得ていて、放課後なども先生の周囲には生徒の姿が絶えないということだった。

でも、横尾先生はそのことを特にどうとも思っていないようで、男子生徒にも女子生徒にも分け隔てなく接してくれる。沙耶は時々指名されて教材に使う資料などを運んだりしたことがあったのだ。

横尾先生は、沙耶が部活に入ってないのを知っているようだった。担任でもないのに、記憶力がいいなあと感心する。教師と言うのは、その学校の先生だというだけで、三百人以上の生徒のことを覚えなきゃならないんだろう。大変なことだと思った。

「補習です、数学の。実力テストが散々だったんで、崎谷先生が見てくれることになって」

「なんだ、崎谷か」

横尾先生は崎谷先生のことを時々呼び捨てにする。確かに、崎谷先生の方が年が若いから、そういうこともあるのだろう。

「折角の連休についてないな」

「ハイ。でも、崎谷先生は私のことを心配してくれてるので、ありがたく思わないと」

「沙耶の成績をな」

何故か、横尾先生が言い直した。なんだろう?