テスト期間中は、学校が午前中だけで終わるので、結構誘惑が多い。だから今日も図書室に逃げ込もうとしていたところを、丁度帰るつもりだったらしい芽衣に声を掛けられた。

「沙耶。折角だから一緒に帰らない?」

芽衣はテスト期間中でも憂鬱な顔を見せない。勿論張り詰めた様子もなく、ちょっと勉強のことばかりできりきりしていた沙耶の気持ちを、ほっと和ませてくれるような笑顔だった。幸い、明日のテスト項目は古文と世界史、地理に生物だったので、少しくらい気晴らしをしてもよさそうだった。

「優斗くんは?」

「先に帰ったわよ。今日も塾なんだって。テスト対策らしいから、遅れられないって言ってたわ」

「そっかー。頑張るねー」

芽衣の口調がのんびりとしているので、テストが始まってから張り詰めていた気持ちが、更に和らぐ。決して望んできりきりとしていたわけではないけれど、やっぱり今回のテストは崎谷先生の補習のこともあったし、出来れば悪い点数は取りたくなかった。それで、どこかで糸がぴんと張っていたのだろう。

「駅でお茶していかない? 甘いもの、食べたい」

「良いわよ」

昇降口を出て、憂鬱な雲の下を芽衣と並んで歩く。降りそうで降らない空気は湿気を含んでいて、嫌な感触で肌に纏わりついていた。

「降るかなー」

「夏だったら、ざっと降って気持ち良くなったりするのにね」

今降られたら、濡れるだけ濡れて、でも全然気持ちよくなんかない。むしろ体感湿度が増して、余計に不快になるだろう。だったら、せめて家に帰り着くまで降らないでほしいと思った。