からりと音をさせて、図書室へ入る。幾分空調の効いた空間は、自習をする生徒たちの格好の集合場所でもあった。その机の端に、沙耶も座る。真ん中だと、もし途中で席を立ちたくなったときに、誰かの邪魔になるといけないからだ。

大体放課後の図書室の席は定位置化していて、沙耶は一番空いているあたりの机の端を取る。少し離れて、何度か見かけたことのある眼鏡を掛けた男子と、それから後ろの机にはツインテールの女の子がいた。その他には、首の太い大柄な、多分先輩だろうと思われる生徒や、細い眼鏡をかけた女子がいた。

椅子に座って、ふと窓の外を見ると、重く垂れ込めた雲からぽつぽつと雫が落ちてきているのがわかった。窓に当たった雨粒が、そのまま下へ流れていく。図書室内も少しざわめいて、もしかして傘を持ってきていない人がいるのかもしれない。幾人かの人が窓際に寄って、外の様子を見ていたから、沙耶も釣られて窓から外を眺めてみた。

校門へと歩いていく傘の花がぱらぱらと見える。紫陽花と違って、色とりどりの花だから、アスファルトの上で一層華やかに見えた。校門近くを眺めると、ふと目に留まる傘が歩いているのに気がついた。

ピンクの水玉の傘。

女の子が使う傘としては、別段普通のものだけど、どこか記憶の隅に引っかかった。水玉のかさが歩いていく先には緑色の傘。特に目立つ色ではないけれど、水玉の傘と歩調が同じなのか、同じ速度で進んでいくから、他のばらばらに歩いていく傘たちの中で、何故か目に留まった。

やがて水玉の傘は、校門を出て駅のほうへ行ってしまった。後からも傘の花がちらほら歩いていて、この曇天に日を射しているようだった。黄色い傘がくるくると回っていて、早く向日葵の咲く夏になればいいのに、と思った。