このところの曇天続きで、教室の中の空気も澱みがちだった。窓を開けても湿った空気しか入ってこないし、体育の後なんて、本当に悲惨だ。制服に着替えても、リボンを緩めて首元を涼しくしないと、汗がなかなか引かなかった。更衣室で着替えを終えて教室に帰ると、教室ではちょっとした諍(いさか)いが起こっていた。

どうやらきちんと汗を拭ってこなかった男子が居たらしかった。周囲の女子が、汗臭いと言って、きゃんきゃんと騒いでいる。沙耶は昔から優斗のおかげで男子の汗のにおいに慣れていたが、他の女子たちにとってはそうではないようだ。沙耶の年頃になれば、父親の下着と自分の服を一緒に洗ってほしくないという女の子も出てくるという。沙耶は全然気にしないけど。

そんなわけで、騒いでいる女子の気持ちは分からなかったけど、男子と険悪になるのはやめたほうが良いと思うなあと思っていたところへ、崎谷先生が教室に入ってきた。終礼の時間だ。

「はい、注目! 明日からテストが始まるから、せめて一週間くらい、真面目に真剣に勉強して来い。部活も遊びも全て犠牲にしろとは、先生は言わないけど、やるときはやることをしっかりやれ。二年の成績は三年のクラス分けに響くことを、よーく肝に銘じておけ」

崎谷先生の言葉に、はあい、と半分諦めたような返事が教室中から聞こえる。よし、と先生は頷くと、連絡事項は以上、とばかりに号令を促した。

「礼!」

生徒一同が頭を下げ、先生がそれに頷くと、今日一日の学校が終わる。教室の空気が解けると、教卓近くの女子たちが、一斉に先生のところへ駆け寄っていた。