傘からはみ出そうになった優斗に慌てて寄って、濡れた肩を傘の中に入れてやる。そんな沙耶を、優斗はじっと見つめてきていた。

…ちょっと、怖いくらい。

返事如何では、もしかして優斗がどうにかなってしまうかのように。

「…そう、よ?」

少し、言葉が喉に引っかかるような気がした。返答は確かに間違ってはいない。そのはずだ。

…優斗が、そっと息を吐き出す。それはとても重たい空気のように、足元へと落ちていった。

「…うん。なら、良いんだ。ゴメンな? 心配しちゃった」

心配? 心配って、なにを?

そう思ったけど、聞けなかった。今日の優斗は、どことなく沙耶の知っている優斗とは違うような気がする。

…違う、人みたい。なんだか、ぐっと大人の人みたいな…。

傘の内に篭る汗のにおいも、体育の授業のあとの、仲の良いクラスの女子のものとは違う。勿論幼い頃から知っている優斗の汗のにおいは知ったにおいだけど、いつもだったら一緒に自分も汗まみれになってるはずなのに、今、汗のにおいをさせているのは優斗だけで、狭い傘の中、それだけで自分と優斗が違うなんじゃないかと感じてしまっていた。

「…帰ろ?」

優斗がそう促してくれなかったら、沙耶はもっと長いことその場に立ち尽くしていただろう。傘を持っていた手を外されて、優斗が代わりに持ってくれる。優斗の歩みに先導されるみたいに、沙耶も駅までの道を歩いていった。