ちょっと小さい折り畳み傘の中で、仲良く二人で並んで歩く。地面の焼けるにおいと混ざって、汗のにおいがした。

「優斗、汗びっしょりね」

「あ、ごめん。くさい?」

「ううん。別に平気よ」

つい先刻まで動いていた優斗は、もう額に汗を滲ませている。雨で流されても良かったんだけどな、と優斗は笑っていた。

傘がバタバタと音を立てている。雨粒は思ったより大きくて、足元の靴も濡れさせていた。

小さく出来た水溜りを跳ねる音が背後から聞こえてきた。硬い革靴の音は、きっと女子のものだ。沙耶たちはちょっとだけ彼女に道を譲ってやると、革靴の主は少しだけ走る速度を緩めて、やや躊躇いがちに沙耶たちの横をすり抜けていった。ピンクの水玉の傘が揺れる。走るたびに見え隠れする緩いみつあみは、どこかで見たような気がした。

「…で? 『だから』、なに?」

雨の音が響いている傘の中で、優斗が問うてきた。なんのことだっけ、と、今しがた見たみつあみと記憶がごっちゃになる。

「俺に、迷惑掛かるとか思ってるの? 平気だよ? 自分の復習にもなるし」

優斗の声は、やさしい。声って、性格が出ると思う。優斗の返事を聞きながら、沙耶はぼんやりと雨の降る景色を見ていた。

「うん。…でも……」

「なあ、沙耶。それって、ホントに、俺のため?」

先刻のやさしい声が、ちょっと突き刺さるように聞こえた。横を振り向くと、優斗は沙耶のことを真剣に見つめていて、折り畳み傘の中だから、ぱちっと合った視線を外すことも出来ない。

「…ゆうと?」

「ホントに、俺のため?」

思わず、歩みが止まった。優斗が足を止めていたのだ。