「自分の弱いところを、ちゃんと復習しておくこと。中間まで間がないことだし、部活や遊びも良いけど、ちゃんとやるべきことはやっておくこと」

そうなのだ。うかうかしていると、すぐに中間テストが始まってしまう。沙耶は現国などの文系科目はまあまあ出来たので、やっぱり理系科目を重点的に勉強しなければならないだろう。…進路は文系を選択するつもりなので、なんだかちょっと腑に落ちないところもあるけれど。

そうして授業が始まった。前回の授業の復習を少しやって、それから今度はグラフの移動について授業が進んでいく。沙耶はやはり、教科書と先生の板書を見比べるので精一杯だった。とても、理解して頭に叩き込んで、そうして問題がすらすらと解けるようになるとは思えない。一生懸命、先生の板書を見ていると、時々ふと、崎谷先生の視線と目が合うような気がした。沙耶の席は教室の後ろの方だったので、教室全体の様子を見渡していたのかもしれない。でも、くるりと全体を見渡す視線が、ふいに沙耶のところで止まるような気がした。…もしかすると、授業についてきているかを心配してくれているのかもしれない。少し恥ずかしい気持ちになりながらも、沙耶は嫌な気分ではないことに気がついた。

(……だって、気にかけてくれてるんだったら、頑張らないと…)

崎谷先生は、やさしい。そんな先生が、出来の悪い生徒を気にかけるのは当たり前かもしれないけれど、その気持ちになんとか応えたいと思う。そう思わせる先生っていうのは、やっぱり悪い先生ではないと思うのだ。むしろ、生徒のことを良く考えてくれる、いい先生だと思う。

(……その辺を、やっぱり優斗に分かってほしいなあ)

そんな風に思う。崎谷先生が、沙耶だけを補習したのだって、別にその後、クラスの中で何か言われたわけでもないし、逆に「連休中まで勉強なんて、災難だったね」などと同情されたくらいだ。だから、優斗が気にしすぎなんじゃないかなと思う。優斗は優斗で、沙耶が何か揉め事に巻き込まれるのではないかと心配してくれているのだから、それも悪いことじゃない。どう言ったら、優斗に分かってもらえるかなと、そんな風に思った。