空がグレーの雲に覆われていた。低気圧が近づいてきているとかで、夕方から雨になる、と朝の天気予報で言っていた。窓から入ってくる風も、どこか湿り気を帯びているように思うから、もうそろそろ降り出すのかもしれない。

教卓には崎谷先生が立っていて、紙の束を抱えていた。

「それじゃあ、この前の小テスト返すから、名前呼んだら取りに来て」

先生が抱えている束は、小テストの答案用紙らしかった。男女で五十音順に名前が呼ばれて、その度に生徒が席を立って教卓まで取りに行く。

「―――、大滝、…もうちょっと頑張れ。加藤…、調子良いじゃないか。金山、……もーちょっと丁寧に問題読め」

次々と、名前を呼ばれていく。

「岡本」

沙耶も呼ばれて席を立った。教卓まで答案を取りに行くと、先生が手渡してくれるときに、眼鏡越しに微笑ってくれた。

「前より良く出来てる。その調子だ」

思いがけずやさしい声で褒められて、嬉しくなった。自席に戻る途中で優斗と目が合って、良かったな、と目で合図されて、嬉しかった。答案を見てみると、実力テストのときより赤い丸が増えている。多分平均点よりはまだ悪いだろうけれど、でも沙耶にとって、これは進歩だ。満足感に浸りながら席に着く。崎谷先生は全ての答案を返却し終わると、教卓に手を置いてクラス全員に向かって話し始めた。