「さや? どうしたの?」

黙り込んで考えてしまっていたので、芽衣が心配して声を掛けてくれた。なんでもないよ、と言ってみたけど、芽衣がじっと沙耶のことを見てくるから、ちょっと口がもごもごと動いてしまう。

「……芽衣ちゃん。……先生が、贔屓なんて、すると思う?」

「贔屓?」

突然の話向きに、芽衣はちょっと驚いたようだった。でも、うーん、と考えて、あんまり無いんじゃないかなあ、と言った。

「今、そういうの、厳しい目で見られてるじゃない? 生徒同士の関係にも影響出てくるし…。だから、よっぽどは無いと思うけど」

芽衣の言葉にほっとする。沙耶が安心したのを見て、芽衣が笑った。

「むしろ、逆じゃない? 生徒の方が、先生の好き嫌いはっきりしてるから。…ほら、三年生の先輩達のこと、聞いたことない? 横尾先生、大人気って」

「うん、聞いたことある」

「ね。でも、問題とかにはなってないし、そういうのは先生たちはきっと何度も経験してるから、上手に相手してるんだよね。多分」

にこにこと笑いながら、そう話してくれるので、沙耶も余計に安心できた。明日、優斗にもそう言ってみよう。崎谷先生や横尾先生があらぬ疑いをかけられるのは、沙耶としても残念だから。

担任だし、やさしいから、崎谷先生には嫌われて欲しくないって思う。生徒側の受け取り方が一様ではないことは沙耶も承知しているけど、でも親友には崎谷先生や横尾先生のことを悪く思って欲しくない。生徒との間が不穏なものになってしまったら、先生だってクラスを纏めることがやりづらくなってしまうだろうから。

「そうよね。崎谷先生も、横尾先生も、もう何年も先生やってらっしゃるんだもんね」

「そうよ。そんな、変なことしないわよ」

嬉しくなる。やっぱり先生たちはいい人だって思う。芽衣にその気持ちをわかってもらえたような気がして、沙耶は心から安心した。