廊下に出ると、丁度階段に向かって芽衣が歩いてきているところだった。校舎の階段は、沙耶の教室と芽衣の教室の間にある。芽衣が、沙耶に気付いて手を振ってきた。

「芽衣ちゃん。今帰り?」

「うん。沙耶も?」

頷くと、駅まで一緒に帰ろうか、という話になった。そのまま一緒に階段を下りて、昇降口に向かう。

靴を履き替えて、昇降口を出ると、グラウンドの方からは、もう運動部の練習の声が聞こえていた。きっと優斗もランニングくらいしているところだろう。部活の負担のある優斗にあまり迷惑はかけられないから、やっぱり今日は家で一生懸命勉強をしておかなければ。

つい、グラウンドの方を窺ってしまっていて、隣の芽衣がどうしたの? と聞いてきた。

「あ、ごめんね。ラグビー部も、練習してるなって思って」

「ああ、優斗くんか」

「うん。明日、数学見てくれるって言ってくれたから、悪いなあって思って」

「数学? ああ、小テスト? 今日ウチのクラスでもやったよ」

全然わかんなかったよー、と芽衣が嘆いていた。ああ、やっぱり難しそうだなあ、なんて、ちょっと心配になる。

「でも、優斗くんも、言うほど数学良くなかったと思ったけど」

「うん、そうなの。だから、悪いなあって」

ふうん? と芽衣が首を傾げた。そんなんなら、先生に聞きに行けばいーのに、なんて言っている。…ちょっと、沙耶は考え込んでしまった。

そうなのだ。優斗があまりに気持ちよく「教えてあげる」なんて言うものだから甘えてしまったけど、お互い余裕も無いことだし、どうしてあんな風に言ってくれたのかなあ、と思ってしまう。…少し、授業の前に話したことが頭の中に蘇ってきた。

……でも、崎谷先生も横尾先生も、そんな贔屓をする先生には見えないんだけど……。

ちょっとそう思って、もしかしたら、優斗はその辺を気を利かせて、沙耶に数学を見てあげる、なんて言ってくれたのかもしれない。そうだとしたら、優斗は随分人が良すぎる。