「よし、終わり。後ろから集めて」

横尾先生の声で、一気に教室がため息をついた。一番後ろの座席の生徒が、順に答案を回収していく。沙耶は答案を渡してしまうと、前方の席の優斗の方を見た。優斗は答案を回収しに来る生徒を見ていて、ふと沙耶の視線に気付くと、ちょっと情けないような顔をした。

答案が全部集まると、丁度チャイムが鳴った。日直の号令で礼をして、横尾先生が答案と教材を抱えて教室から出て行く。ざわめいている教室の中、沙耶は優斗の席に近寄った。

「どうだった?」

「…どうだろ…。カタカナの名前って、なんか覚えにくくて駄目だ。人物にしても、都市の名前にしても」

「そうね、私たち日本人だしね。もう、ひたすら覚えるしかないもんね…」

沙耶が同調すると、優斗は「そう! そうなんだよ!」と嘆いた。

「ヨーロッパの過去の出来事が、俺の未来に何を残してくれるんだ、っつー話!」

「それ言ったら、数学だってそうよ。私、別に理系に進むわけじゃないのに……」

「な! 世の中、無駄な勉強が多いよなあ」

どうしても、学生としては勉強に文句が出てしまうのは仕方がないことだ。苦手科目なら尚更のこと。沙耶と優斗は、互いに顔を見合わせて苦笑いをした。

「仕方ないよな。もう終わったテストのことは、なにも言わない。それより、沙耶の数学だよ」

優斗が気持ちを切り替えるように首を回しながら言った。どうやら、優斗は本当に沙耶の数学を見てくれようとしているらしい。

「でも、本当に良いの? 優斗だって、勉強しないと駄目でしょ?」

「それは、沙耶のを見ながら一緒にやるからいいよ」

にこにこ笑って優斗がそんなやさしいことを言ってくれる。放課後は部活がある優斗には、明日の昼休みに少しだけ問題集を見てもらうことにした。

「じゃあ、今日、家で頑張って問題集やってくるね。頼むわね、優斗」

「うん。俺も、ちょっと復習しとく。頑張ろうな、沙耶」

ぐっと握りこぶしを作って、優斗が教室を出て行く。沙耶も、机の教科書を鞄に詰め込んだ。